「無給電ラジオ」の語の技術的妥当性に関する考察──無電源ラジオとの比較を通じて(福井大学 庄司研究室 公式)

はじめに

外部電源を必要とせずに動作するラジオ装置は、趣味の電子工作などではしばしば「無電源ラジオ」と呼ばれる。しかし本研究室が探究しているラジオは、単に電源を“持たない”のではなく、受信電波に含まれるエネルギーを自らの動作エネルギーとして変換・利用する「発電型受信機」である。その技術的実態を工学的に正確に表すため、当研究室では「無電源ラジオ」ではなく、「無給電ラジオ(power-supply-free radio)」という語を一貫して用いている。

「無電源」と混同されやすい理由

「無電源」という語は、「電気を使わないラジオ」や「鉱石ラジオ」のように、受動素子だけで成立する回路を連想させやすい。一方、無給電ラジオは電気を使わないわけではなく、電波そのものを電力として取り込み、動作に活用する。つまり「電力を使わない」のではなく、「外部から給電されない」という点に本質的な違いがある。この区別が曖昧なまま説明されると、技術的な誤解や分類上の混乱を招くことになる。

無給電(power-supply-free)とは何か

「無給電」とは、「外部電源による給電を必要としないが、装置内部で電気エネルギーが生成・利用される状態」を指す。

・電池を使わない
・USB給電をしない
・商用電源も不要

ただし、これは「電力が関与しない」という意味ではない。むしろ、受信電波を整流・変換して電力として活用する能動的なエネルギー利用構造を持つ。この考え方は、国際的に rectenna(整流アンテナ)、RF energy harvesting、self-powered device などとして知られる技術概念と整合する。

無給電ラジオの動作原理

・アンテナで放送波を受信
・高周波信号を整流し、直流電力に変換
・必要に応じて平滑・蓄電
・その電力でイヤホンや電子回路を駆動

すなわち、外部から給電されずとも、受信電波を自らの電力源として独立して動作するラジオである。

無給電ラジオと無電源ラジオの違い(比較整理)

【無給電ラジオ】(HOOPRAなど)

・外部電源:不要
・電波の扱い:情報と同時にエネルギー源としても利用
・回路構成:電波を整流・蓄電し、負荷(イヤホンなど)を駆動する能動回路
・技術思想:外部給電に依存せず、電波エネルギーを活用して独立動作を実現する設計
・典型構造:(大型)ループアンテナ+整流回路+平滑・蓄電素子+負荷素子
・代表例:HOOPRA、電波発電型受信機
・キーワード:power-supply-free / self-powered / RF energy harvesting / rectenna

【無電源ラジオ】(鉱石ラジオなど)

・外部電源:不要
・電波の扱い:情報の抽出が目的で、エネルギー源とは見なさない
・回路構成:検波素子と受動部品のみで構成(電力増幅なし)
・技術思想:最小構成による受動的な受信を目的とする古典的設計
・典型構造:フェライトバーアンテナ+鉱石またはゲルマニウムダイオード+高インピーダンスイヤホン
・代表例:鉱石ラジオ、ゲルマニウムラジオ、クリスタルイヤホン教材
・キーワード:passive receiver / crystal radio / powerless detection

両者の決定的な違い

無給電ラジオ:電波を「情報」と「エネルギー源」の両方として積極的に利用し、外部電源なしで独立動作する。

無電源ラジオ:電波を「情報の担体」としてのみ扱い、電力供給を前提としない受動回路である。

→ HOOPRAは「無電源ラジオ」ではなく、「無給電ラジオ」である。

エネルギーハーベスティングとの関係

無給電ラジオは、RF energy harvesting(電波発電)の応用実装であり、受信電力の一部を音声再生やセンサ駆動、LED点灯などに転用できる。このような構造は、防災用非常ラジオやIoTデバイス、省電力通信機器などへの応用可能性を広げる。

国際用語との対応

無給電ラジオは次の英語表現と対応する。

・power-supply-free radio
・self-powered receiver
・batteryless radio(広義)
・rectenna-based receiver
・RF energy harvesting device

いずれも、外部電源に依存せず、電波エネルギーを積極的に利用する能動的装置を意味する。

研究室としての公式立場

当研究室は、「無給電ラジオ」を次のように定義する。

外部電源を必要とせず、受信電波を電力として変換・利用し、独立して動作するラジオ受信機。

したがって、「無電源ラジオ」とは意図的に区別し、研究発表・特許・展示・広報すべてで「無給電」という用語を統一的に使用している。

用語定義(最終版)

無給電ラジオ(power-supply-free radio)とは、外部から給電されることなく、受信電波を電力に変換して動作する能動型ラジオ受信機である。

参考:技術的正当性に関する詳細文(改訂版)

本発明における「無給電ラジオ」とは、電池・蓄電池・商用電源・USB給電などの外部電源による電力供給を一切必要とせず、受信電波に含まれる高周波エネルギーを整流・変換することで内部電力を得て動作するラジオ受信機を指す。

「無給電」という語は、“電力が外部から給電されない”という状態を的確に表現するものであり、単に「電源が存在しない」ことを示す「無電源」とは概念的に異なる。一般に「無電源ラジオ」という言葉は、電力増幅を伴わず、ごく微弱な電波信号を受動的に検波する回路(例:鉱石ラジオ、ゲルマニウムラジオ)を想起させる。これらは外部電源を必要としないが、電波を電力源として積極的に利用する構造とは一線を画す。

対して、無給電ラジオは、外部給電なしで電力を得て、能動的な動作を実現する構造を備えており、次の2点において技術的に明確な区別が可能である。

「無給電」はエネルギー源の不在を意味しない。
→ 外部電源は不要であるが、電波に含まれるエネルギーを内部で活用する設計である。

エネルギーハーベスティング機構を含む構造である。
→ 整流アンテナ(rectenna)、RF energy harvesting、self-powered device といった国際的な技術概念と整合する。

近年の電波発電分野では、batteryless(非電池型)、self-powered(自己電力駆動)、power-supply-free(給電不要)といった表現が用いられており、「無給電ラジオ」はこれらの国際用語に対応し得る日本語として妥当である。

したがって、「無給電ラジオ」という語は次のような理由から、工学的に適切な用語である:

外部からの給電を一切必要としないことを明示できる。

電波をエネルギー源として取り込み、内部で活用する技術的特徴を正確に表現できる。

庄司英一
(福井大学 先端マテリアル創造ものづくり研究室)

以上