『春の小川』をディープラーニング – AI作曲・AI編曲の著作権や著作者人格権どうなる?

ディープラーニングによるAI作曲、AI編曲の可能性を探究しています。GoogleのMagentaによる、春の小川をディープラーニングさせて結果ですが、得られた楽曲は、RNNのアルゴリズムや中間層のパラメータで変化します。パラメータ次第では、原曲の痕跡を残さないような曲も生成します。100年前ではまったく想像もできなかったことだと思います。

ある曲を学習させてAIに作曲させた場合、希望する小節数と、曲数を指定すれば、例えば、100小節で1000曲と指定すれば、瞬時に楽曲が自動生成が可能です。学習のさせ方で、もとのメロディーを部分的に残したり、もとの曲とは似ても似つかないメロディーを生成することができます。そうなると、編曲したのか、新たな作曲をしたのかが不明確になりそうです。原曲の音符に関わる長さや音高の頻度やつながりを学習していますので、それらを踏まえてAIが作曲した場合、原曲に対してメロディーラインが似ても似つか無い楽曲が得られても、それは原曲を踏まえた曲だと言えるのでしょうか?あるいは、それは新しく作曲したものと見なされるのでしょうか。中途半端に、もとのメロディーラインを残した場合は、剽窃の誤解を生むかもしれません。

著作者の権利には、著作権著作者人格権があります(参考:JASRAC)。音楽の著作権は、著作者が楽曲を創作した時に発生し、著作者の死後70年を経過するまで存続すると著作権法で定められています。この期間を著作権保護期間と言います。ただし、著作権保護期間が過ぎても、著作権は相続財産として遺産分割の対象になりますので、親族等が引き継ぐことが可能です。既存の音楽作品を、編曲したり、替歌にしたり、詞を翻訳するなど、改変して公表する場合には、事前に原作品の著作権者の許諾を得る必要があります(著作権法第27条)が、作者が死亡していた場合でも注意が必要です。引き継がれていないパブリックドメイン(PD)になるのかと思われます。

著作者人格権は期限が無く、永久に続く権利となっています。しかも、著作者人格権は著作者だけが持っている権利で、譲渡したり、相続したりすることができません。この権利の中に、同一性保持権(著作権法第20条1項)があり、これは著作物の内容および題号(タイトル)の同一性を保持する権利です。著作者の意に反するような改変をすると、人格権侵害になります。著作者本人がそのようには改変してもらいたくないとなれば、編曲や改変ができません。著作者が死亡していたとしても、この権利は永久に続くから、もしその人が生きていたなら、そうしてほしいだろうということで、改変に制限がかかるようです。この死亡していた場合は『著作者の意に反するような改変は人格権侵害である』と誰が言うのでしょうか。社会が言うのでしょうか。ベートーヴェンの第九のイメージを壊すような改変は許されない、ベートーヴェンが生きていれば、その改変は認めないだろうから、となるのでしょうか。今を生きる私たちにとってベートーヴェンには敬意を払うからこそ、ロックバージョンの第九の改変はありなのでしょうか?

ある楽曲をディープラーニングさせると、その学習に基づいて、無数の曲が無尽蔵に生成可能です。生成のさせ方で、もとのメロディーラインを残すことも、まったく痕跡をのこなさいメロディーラインにすることも可能な方法が分かってきました。明らかに痕跡を残さしていない場合とは、何を持ってどのように判断するのでしょうか。音高のならびだけで言ってよいのでしょうか。ディープラーニングは音高のみを学習していません。この状況では、著作者人格権はどうなるのでしょうか。作者が死亡している場合、承諾も得られない状況では、どうなるのでしょうか。AIに改変させたと言っても、実際にはそれをコンピュータで操作した人がいるのが現状ですから、その人が改変したとなるのでしょうか。AIではなくその人が二次的著作物を作ったと主張するのでしょうか。

原著作物を基礎として創作された新たな著作物のことを『二次的著作物』と言います。その著作物を作成した人は著作権を有しますが、原著作権者もその著作物について著作権を有することになります。しかし、そもそも、原著作権者の著作者人格権を無視した状況で、あるいは承諾を得ない状況で勝手に改変したら人格権侵害の可能性が出てきませんか。創作というと聞こえは良いかもしれませんが、人格権侵害なら台無しです。作者が生存していれば、許諾を得ることができるでしょうが、死亡していた場合は、後世の人がその作者の思いをくみ取って改変を認めるのでしょうか。非常に難しい問題かと思われます。著作権法はこれからのAI時代に現状でどれだけ対応していけるかが大切かと思われます。ここがしっかりしないと、AIを使った学術研究がトーンダウンしてきます。ドローンで話題となった、いわゆる、サンドボックスの方策がAI研究にもあってよいと個人的には思います。科学技術の発展に寄与すると思いますから。

日本の唱歌を代表する楽曲の一つ『春の小川』の作曲者、岡野貞一氏に敬意を払い、100年前には想像もつかなったAI時代の著作権、著作者人格権を考える一例になればと思い、今回、無修正のまま一例を紹介させて頂きます。繰り返しになりますが、AIでは以下の様な楽曲は瞬時に1万曲でもそれ以上でも無数に生成させることが可能です。ただし現状のアルゴリズムのレベルでは人が感動するような楽曲はとても難しい状況です。科学の歴史に学べば、人が感動するレベルを持つAI技術への到達は、時間の問題だと思います。

春の小川 作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一 (1912年に発表された文部省唱歌)

JASRAC 作品コード 067-5248-9 春の小川
(※著作権は消滅しPDとなっているようなのでYouTubeではなくこちらで紹介します)

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(初稿 2020.2.12)

2024.11.28 リンク切れの修正